第15回日本在宅医学会大会in愛媛

ごあいさつ

      <p>第15 回 大会長 医療法人ゆうの森永井康徳

 日本在宅医学会は在宅医療を評価し、展望する在宅医学の確立、そして在宅患者の"生活の質"の向上を目指し設立されました。本年で設立14年を迎えましたが、その間に医療全体の中での在宅医療の位置づけや担う役割は大きく変わってきました。

 今、日本では、世界のどの国も経験したことのないスピードで高齢化が進んでいます。出生者数より死亡者数が上回り、亡くなる人がかつてない数で増え続けていく多死社会を迎えるにあたり、医療はどう対応すべきなのでしょうか?治す医療を追求して発展してきた日本の医療ですが、どんなに良い医療を行ったとしても老化や死は避けられません。にもかかわらず、最期まで治療し、闘い続けて亡くなることをすべての人が求めているのでしょうか?患者が避けられない死を目前にしたとき、残された時間をよりよく生きるために、私たち医療従事者は何をしてあげられるのか。そのことを患者本人と向き合って考える医療が求められていると思います。


例えば、胃瘻栄養について。在宅医療の対象となる患者は、すでに食べることが困難か、近い将来食べられなくなる方がほとんどです。従って、在宅医療において「食べる」ということと栄養経路の選択は非常に大きなテーマです。
現在、日本で胃瘻栄養を行っている方は40万人いるといわれています。毎年、新規に胃瘻増設される方は20万人といわれ、これほど胃瘻増設を行っている国は世界でも日本だけのようです。「あなたが将来、認知症が進行して寝たきりになり、食べられなくなった時、あなた自身は胃瘻栄養を行いたいか」と聞くと、多くの人が胃瘻栄養はしたくないと答えます。また、昨年四国の在宅療養支援診療所の医師に行ったアンケートでは、実に81%の在宅医が自分が食べられなくなったときには、胃瘻栄養はしたくないと答えています。多くの人が望まない胃瘻栄養がなぜこんなにも普及しているのでしょうか?
自分自身は胃瘻栄養をしたくないと答える人も、自分の家族が食べられなくなったときに胃瘻栄養をするか?との問いには、言葉が詰まってしまいます。それほどに、他者の生き方、死に方を他者が判断することは困難なのです。
しかし、現在、食べられなくなった時に胃瘻栄養をするかどうかを判断しているのは、家族と医療従事者です。そこに、本人の意志がほとんど入っていないのが実情でしょう。食べられなくなった時、胃瘻栄養をする選択肢があることは良いことだと思うのですが、もし、本人が望まないのに胃瘻栄養をしているとしたらどうでしょうか?

対象者のほとんどが胃瘻栄養を行い、社会が介護や医療を負担する社会システムでよいのか?胃瘻栄養の導入に、本人の生き方や価値観は尊重されているのか?これらは、多死社会を迎える日本において、避けられない問題です。また、胃瘻栄養や人工呼吸の中止、亡くなる前に輸液をできる限り絞る自然な看取り、治せないことや限られた命であることを本人と向き合って話しをして、後悔しない選択を促す告知のあり方についても、考えていく必要があるでしょう。

これらの問題から見えてくるのは、本人不在の意思決定。すなわち、患者本人の意思を置き去りにして、家族や医療者だけで決定することではないでしょうか。
老いや死に向き合わずに先延ばしする医療から脱却し、家族や医療従事者ではなく本人自身にとって最善の医療を提供できる患者本人の生き方に向き合う医療を、患者に最も近いところで医療を提供する在宅医療から日本へ、さらに世界へと発信していきたいと思います。
この第15回在宅医学大会は、しっかりと『患者本人と向き合う医療』について議論したいと思っています。